2020年の受講生による実猟レポート

 2020年度の『ハンティングスクール長野』の受講生である、新米猟師の平林さんから、本講座を受け、実際に出猟し、念願の初めて1頭目の鹿を捕獲するまでの流れをレポートしていただきました。
 大変にリアリティのある記事で、狩猟の現場の臨場感や、初めて大物が捕れた喜び(そして捕獲後の大変さも・・・)が伝わってきます。本スクールに興味がある方はもちろん、これから狩猟をしたい方にとって、参考となる点も多いかと思います。ぜひ、読んでみてください。(HSNスタッフ)

※本記事には、鹿の捕獲、解体などの描写、写真が含まれます。ご覧になる方はご注意下さい。

 

自己紹介

こんにちは、ハンティングスクール長野の受講生の平林と申します。まずは私の簡単なプロフィールから。

 名前 : 平林 洸(ひらばやし こう)
 年齢 : 24 歳
 出身 : 長野県長野市出身、松本市在住
 所持免許等 : 空気銃・猟銃等所持許可、わな猟免許(平成 28 年度取得)第 1 種銃猟免許(令和元年度取得)

約 4 年はペーパーハンター

 最初の狩猟免許は、大学生在学中の 20 歳になった記念にわな猟を取得しました。しかし、学生時代は 猟をする場所もなく、猟友会にも所属せず、狩猟者登録もせず、ただ免許を持っているだけのいわゆるペーパーハンターでした。
 そして 3 年後、就職するために松本市へ引っ越すことをきっかけに、銃の所持許可と 第 1 種銃猟免許を取得しました。銃の所持許可を取るときに“最初の年は空気銃でハンティングの空気感を味わったり、冬のアウトドアに慣れる準備期間にして、2年目から本格的にシカやイノシシを獲る大物猟を始めよう”と決めていました。
 そうして 8 月に空気銃を所持し、11 月から空気銃を使った鳥撃ちでハンティングを始めました。

情報はインターネットで

 狩猟免許や銃の所持許可を取得するとき、身近に狩猟をしている人が一切いませんでした。そこで、 まずツイッターを中心にネットで情報収集を始めました。必要な申請方法や試験についてはブログや公式ホームページに詳しく載っていて簡単に進めることができました。また意外とツイッターを利用して いるハンターは多く、奇跡的に近所のハンターさんと知り合うことができてその人の在籍している猟友 会支部に入会しました。しかし、その支部は 20 人ほど在籍していましたがほぼ全員がワナか装薬銃による大物猟で、空気銃での鳥撃ちをメインでやっている人は一人もいませんでした。そのため最初の年は 基本的に一人で出猟していました。

散弾銃の所持、そしてハンティングスクール長野との出会い

 そして2020年の 1 月末に散弾銃を所持しました。猟友会支部に散弾銃を所持したことを伝えると、 50 歳代の支部では若手だった先輩が気にかけてくれるようになりました。(今ではこの人がわな猟の師匠です)

猟期が終わってからは、月に2回ほど射撃場でクレー射撃やスラッグ弾の練習をしたり、ツイッター で知り合った県外のハンターさんから銃を譲ってもらったり、大物猟をするための準備を進めていまし た。そんな時、長野県のホームページで、この『ハンティングスクール長野』があることを知りました。

ハンティングスクール長野の受講

 幸い、応募要項の条件をすべて満たしていたので早速応募しました。

 最初の zoom を使った事前講義では、自己紹介や他の参加者の参加理由を聞いたり、猟に必要となる道具やギア類、事前にやっておくべき準備等を聞いて、自分の狩猟に対するイメージを固めることができて、狩猟に対するモチベーションがより高まったと感じました。

 そして11月14・15日に白馬で開催された『銃猟講座』では、獲物の習性や行動パターン、弾道学やエアソフトガンを使った銃の取り扱いと構え方、スコープの調整方法などなど、初心者講習や狩猟試験では出てこない、超実戦的な内容の講座でした。銃猟、特に一人で山に入り獲物を探して仕留める“単独忍び猟”のイメージを固めることができまし た。

 講座の座学と実技練習の中で『やむを得ず動的射撃をせざるを得ない場合の除いて、精密射撃のためには、可能な限り、撃つ時の姿勢は依託射撃か、難しければ、座射、膝射が良い。(伏射はブッシュなどが邪魔になり、使える場面は比較的少ない)』とのことだったので、講義が終わってから射撃場で実際に自分の銃で射撃練習をしていました。

講座で学んだ膝射を自分の銃で練習

初めて単独忍び猟に出猟

 11月某日。私はホテルに宿泊する予定があったので、その間に見回りができなくなるワナを回収することにしました。ワナの場所までは少し歩くことになるので、もしかしたら道中で鹿に遭遇するかもしれないと思い、遠くのシカでもねらいやすい銃を持っていくことにしました。

 入山ポイントには7時くらいに到着しました。猟期が始まってから2回目の週末ということでグループの大物猟をしているらしく、川と集落を挟んだ反対側の山から銃声が何発か聞こえていました。

 その日は日の出時間が6:31で、発砲可能時間のゆとりを持ちたかったことと、暗い山を一人で歩くのはまだ慣れていないので明るくなるまで待ってから入山しました。 猟場は地元の農家さんから紹介された山で、山すそにあるリンゴ園を抜けて鳥獣防除フェンスのゲートを開けて山に入ります。ゲート付近にはたまに地元猟友会支部以外のハンターがわなを仕掛けに来るらしく、その人の邪魔にならないように、沢をすこし登った場所にわなを仕掛けていました。普通に歩いてそこまでは20分〜30分ほどです。

この時の猟場の山(断面イメージ)

 猟場は上図のように幅が10〜20mほどの沢が流れていて、自分は沢から5〜10m 位の高さにあるフラットなカラマツ林の中を歩いていきました。対岸は倒木が混じる暗めの針葉樹林で、カラマツ林から右側は明るくなだらかな広葉樹林の山になっています。

 図の沢より右側のカラマツ林を歩いていれば、沢にいるシカは私に気が付いたら沢沿いに移動するか対岸の急斜面を駆け上って逃げるのではないかと考えていました。
 そして入山から5分ほど歩いた所で、目の前をニホンリスがちょろちょろと走っていくのを見かけました。 (ニホンリスは非狩猟鳥獣だったなぁ。たしかリスがいるってことは先行者がいないってことだったよなぁ)と思いながら歩いていると、シカのとても新しいフンと足跡を発見しました。フンは粘液が乾いておらず、数時間以内のものだと確信しました。足跡も分かりやすく沢に向かって下りていく足跡でした。
 ここでボルトは閉めて薬室が空の状態のまま 2 発こめた弾倉を装着し、ボルトと引鉄は動かないように安全装置をかけて、いつでも銃を構えられるように3ポイントスリングのロックを外しました。

鹿との遭遇

 痕跡を見つけてからさらに5分ほど、ワナまでちょうど半分まで来た辺りで右の山からナラの倒木がありました。 (下見のときにムキタケがたくさん生えてたなぁ・・・)と思いながら下をくぐって進みました。
 そして立ち上がろうと少し背中を伸ばしたらすぐ左下の沢から「ピャア!!」という悲鳴のような警戒鳴きが聞こえました。
 心臓が爆発しそうになり一気に興奮するのを感じました。しかし、講座の知識と射撃練習をしていたおかげで冷静に思考と行動ができていたと思います。銃の安全装置を外してボルトハンドルを起こし、素早く薬室に弾を装てんできるようにしつつ、カラマツが邪魔にならず沢と対岸の斜面が見える場所まで 5 歩くらい移動しました。この数歩の移動中に(シカだ)(出会ってしまった)(弾倉ははまっているか)(安全装置は解除したか)(周りに人はいないか)(バックストップはあるか)(スコープは狂っていないか) などいろいろなことを一瞬で考えたのを覚えています。

 そうすると、距離30〜40mほどの土砂崩れで少し開けた場所をかけ上がるお尻が1つ見えました。 とっさに薬室に弾を装てんして銃猟講座の時にならった右膝をついて銃を構えて右目でスコープをのぞき、左目を開けて風景全体を見渡す膝射の体勢を取りました。

 まだ動いている獲物に当てる自信が無く、一撃で倒せてお肉がきれいに取れる急所の頭か心臓付近を撃ちたかったので、おしりを見せて斜面を駆け上っている1頭目は狙いをつけただけで撃ちませんでした。その時にふと『シカは複数で移動することが多い』と本講座の座学の時にならったことを思い出して、そのままの体勢で1頭目が駆け上ったルートを息を殺して見ていました。

 そうすると2〜3秒ほど遅れて、もう1頭がもたつきながら登ってくるのが見えました。はっきりと横から獲物が見えるアングルで、首と胴体の付け根のあたりに照準を合わせて獲物の動きをなぞるように 追いながら引鉄に指を掛けました。
そして斜面の中腹で疲れたのか一瞬、動きが止まり周りを見渡すような動きをしました。そこで引鉄を引きました。

ちょうどこんな感じ

 射撃場では銃の反動と音がとても強いと感じていましたが、猟場で撃つと興奮のせいか ほとんど反動を感じませんでした。

シカは前足をパタつかせながら倒木の根元に2〜3mほど転がり落ちました。

(当たった!!!)

 その様子をずっと確認しながら 2 発目を装てんしました。 猟友会の先輩から「当たっても走って逃げることがあるから2発目を準備した方が良い」と言われていたので木の陰から飛び出しても撃てるように構えたまま10秒ほど待ちました。

指先にある倒木の根っこ付近にシカが転げ落ちた

 しばらく待っても飛び出す気配がないので、最後に転がっていったと思われる倒木の根っこ付近に向かおうとしました。そこで歩き出す瞬間に2発目がそのままだったことを思い出し、薬室から弾を抜いて弾倉も取り外しバッグに入れ、銃は安全装置を掛けて背負い直しました。 沢は崩れやすく急斜面のため、恐らくさっきの2頭が使ったと思われる獣道をつかって慎重に移動しま した。

 そして、シカは最後に転がり落ちた倒木の根っこにもたれかかるように倒れていました。

見つけた時は静かに横たわっていた

 死戦期呼吸や痙攣のような動きはありませんでしたが、万が一いきなり暴れ出すと危ないと思い近くに あった2m 位の木の枝で突っついて確認しましたが既にこと切れていたようでした。 頭を崖下に向け心臓の上にある動脈にモーラナイフを入れて血抜きをしてみました。すでに心臓が止まっているため大量には出ませんでしたがある程度の血抜きはできました。

 シカの身体を確認すると、弾は左から右の脇腹にかけて抜けているようで狙いとは少しずれていましたが、ちゃんと当たったことに感激したことを覚えています。

 急斜面ではどうにもならないので、とりあえず沢まで降ろすことにしました。猟友会の先輩からもらった獲物を引っ張るためのロープをシカの前足に結びつけて急斜面を転がるように降りました。 とりあえず安定した平坦な場所に引き出しました。

 そしてロープをくれた先輩にも猟果報告の電話をしてこれで一安心と思い、目の前の獲物を改めて見つめながら、発見してから仕留めたまでを反芻して喜びを実感しました。そうしていると興奮も少し冷めてきて、とある大きな問題があることに気が付きました。

「いったいどうやって車まで引き出せばいいんだろうか・・・」

解体と引き出し

 今回のシカは嬉しいことに体格のいいメスジカで、60キロ以上はあったと思います。しかし私は165 センチ52キロ。引っ張るのがせいぜいです。沢は10mほど下った先で倒木だらけになり、まともに 歩くこともままなりません。そして歩いて来たカラマツ林を引っ張って帰るにしても、まずは10mほどの急斜面を登らなければなりません。

 そこで先輩から一度教わった現場解体で大まかに肉を獲り、残渣を引き上げることにしました。 シカを伏せの体勢にさせて背中から皮を剥いでいき、 背ロースとモモを外し、内臓を取り出して肝臓と肺をチェックして、寄生虫や病気が無いかチェックして大丈夫そうなので内臓は全て大きいビニール袋に詰めました。

背中の皮をはがしてみるとどこから当たって抜けたかが分かりやすかった

 そしてこれからの引き出しに備えて、取ったお肉と銃をまず保管するために1度帰宅することにしまし た。 鉄砲についた泥を落としてガンロッカーに戻し、肉を流水で良く洗って脱水シートに包んで冷蔵庫に入 れて再び現場に戻ります。戻る途中で残渣の移動がしやすいようにトロ舟とブルーシートを購入しつつ、 協力を頼めそうな人たち数人に連絡をしました。しかし都合がつかず、どうしても一人で運びきること になりました。

 そして再び現場へ戻ってきましたが、やはり解体しても残渣は重く急斜面を引っ張り上げるのは本当に大変でした。崩れやすい斜面を何度も獲物を落としたり自分が転がり落ちたりで土だらけ落ち葉だらけになりながらどうにかして持ち上げた頃には、冬なのに汗だくになっていました。

★に獲物が倒れていて、○で解体をして、矢印の方にある歩きやすいカラマツ林まで引き上げた

 入山してから撃つまでに約10分、解体に30分、そして獲物を引き出して車に積み込むまでに4時間ほどかかりました。そして家に帰り急いで身支度を整えて、その後のハンティングスクールに参加しました。

初めての獲物を食べてみた

 初めてのシカを仕留めた翌日、『ハンティングスクール長野』の講座内でジビエ料理講座がありました。そこではカモやキジといった一般的なジビエの他に、カラスやニホンザル(有害鳥獣捕獲)など少し珍しいジビエの調理法なども紹介されました。
 そこで、私の仕留めたシカのタンを使ったアヒージョを作っていただきました。色とりどりの野菜の角切りとタン、そしてダシのしみ出しているオリーブオイルをパンに乗せて一口に食べました。文字にすると簡単になってしまいますが“とても美味しかった”です。熱々のアヒージョを口をやけどしながら、獲った実感と一緒に噛み締めることができて本当にうれしかったと思います。
 そして、このハンティングスクールの銃猟講座を受けたあとに実際に初めてシカを仕留めることができたので、「わな猟講座」を受けたあとはワナでシカを獲ることができる!と期待しながら、残りの「わな猟講座」を受けました。

私のファーストバイトのタンのアヒージョ

今後の活動について

 猟友会の先輩方は70代80代の方たちが多く、(なぜハンティングは大変なことが多いのにご高齢でもやっているのだろうか。)と疑問に感じていました。
 しかし、今回、獲物を獲ったとき、その理由が全て理解できたように思います。あの何物にも代えがたい感覚を味わったら抜け出せなくなってしまうと思います。私も狩猟を一生をかけて楽しめる趣味にしようと心に決めました。
 魅力的な狩猟を長く続けられるように、安全第一・法令遵守を常に意識して取り組みたいと思います。そして、そのために先輩たちから経験や技術を受け継ぎ、新しい情報などを積極に取り入れて、これからも学び続けていきたいと思います。

 また、狩猟をしていると地元住民の皆さんと話す機会が多くありました。今回のシカを撃った場所に入るときもリンゴ園を通るので作業している農家さんに挨拶をしたり、エアライフルでキジを狙いに何度もポイントに通う途中散歩している方と世間話をしたりします。 そうすると「防獣柵を越えて悪さをするシカやイノシシに困っている。」とか「レタスを植えてもすぐにキジに食べられて植えなくなってしまった。」などのお話を聞くことがありました。
 そんな話を聞いてその悪さをする動物たちと最前線で向き合っている自分にも何かできることは無いかと思い、猟友会の先輩に話すと猟友会員は年間を通じてそういった悪さをする有害鳥獣を駆除できる資格をもらえると教えてくれました。そして現在は猟友会にお願いして、松本市の有害鳥獣駆除の従事者として活動できるようになりました。
 今回シカを獲れたように、『ハンティングスクール長野』で身に着けたスキルや経験を使って、少しでも地域の鳥獣被害を少なくできるように頑張っていきたいと思います。

最後に

 今回の 2020年度の『ハンティングスクール長野』に参加させていただき本当にありがとうございました。 また、こうして記事を書く貴重な機会をくださったことに感謝致します。

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